開発の始まりと最初の印象
「囲柱ラーメン木構造」は2011年より構造試験による開発が開始されました。当時の瀧本氏は木造の構造設計の基本的な仕様規定の考え方である「壁倍率」も知らない状態でした。まずは、壁倍率のレクチャーから打ち合わせが始まりました。
このような場合、思い付きで試験をしても思ったような結果が出るわけでもなく開発が終わるケースがほとんどです。正直に申し上げますと、2011年に開発の御相談があった際には、この囲柱ラーメン木構造についても「構造試験は耐力もそれほど高くはないであろうし、開発自体をすぐにあきらめてしまうかなぁ。」という印象を私自身持っていました。
岐阜県産材の導入と技術的進化
当初の「囲柱ラーメン木構造」では、樹種としてはオウシュウアカマツ材(輸入材)を使用していました。私としては岐阜県産材利用を推進する立ち位置でいますので、「囲柱ラーメン木構造」に関しては、単なる依頼試験のみの実施という対応をしていたと思います。
しかし、瀧本氏は試験結果の破壊状況・強度などをみて、「なぜこの部分が破壊するのか」、「なぜ耐力が低いのか」などを緻密に回顧・分析し、鉄骨屋さん(?)である瀧本氏らしく、鉄板の長さや厚さをコンマミリ単位で調整することを試みていました。
このように緻密な検証をこつこつと取り組まれている瀧本氏を拝見させていただき、私は打ち合わせのたびに構造部材に岐阜県産材の採用をお話させていただいていました。岐阜県産材を利用していただけたら、立場的に積極的な技術的アドバイスを私から提供することが可能になるからです。2015年に岐阜県産材の試使用を試験した結果、オウシュウアカマツ材仕様の「囲柱ラーメン木構造」よりも岐阜県産ヒノキ集成材・製材仕様の「囲柱ラーメン木構造」が高耐力であることが分かりました。
材料強度は欧州アカマツの方が高いのですが、岐阜県産ヒノキ集成材・製材仕様は「囲柱ラーメン木構造」の接合金物などとの相性が良かったのかもしれません。(・・・相性というと非工学的表現になってしまいますが、断面が大きいから組み合わせた際に強いとか、高強度な接合具だから組み合わせた際に強いとか、など木造は組み合わせでの強度は得てして相性によって結果が異なる場合も多いです。)
岐阜県産ヒノキ材による革新
そして、2016年に岐阜県産ヒノキ材を利用した「囲柱ラーメン木構造」が誕生しました。
ここで、木造ラーメン構造に関する技術的なことを振り返ります。「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」で2008年からラーメン構造の設計方法の記述が無くなり、木造建築業界的に木造ラーメン構造の開発や設計が滞りました。しかし、2016年に「木造ラーメンの評価方法・構造設計の手引き」の発行により、徐々に1方向ラーメンの開発が進み始めました。
このように、ちょうど木造ラーメン構造の激動の過渡期に「囲柱ラーメン木構造」が開発されていました。そして、この2016年の手引きが「囲柱ラーメン木構造」開発促進への転換点となり、設計・利用への追い風となったと思います。
それまでに着々と開発を続けていた「囲柱ラーメン木構造」は2017年に2方向ラーメンの実大実験を行いました。この実験は岐阜県産ヒノキ材による立体ラーメン架構の構造試験としては日本初(すなわち、世界初)の試みとなりました。この試験結果に関して技術評定を取得し、2018年に囲柱ラーメン木構造+RC造の混構造である第1号物件(ライン工業本社事務所・岐阜県可児市)の建設へと繋がりました。
開発から15年目、第1号物件建設から7年目である2024年8月の時点で第11号物件の建設着手の状況であると伺っています。徐々にですが、瀧本氏の思いが広がりつつある状況です。
囲柱ラーメン木構造の技術評価と今後の展望
さらに、学術的観点からも「囲柱ラーメン木構造」に関しては、2016年に国際会議World Conference on Timber Engineering(オーストリア・ウィーン)へ1編、2017年に日本建築学会大会(広島)へ4編、2018年に国際会議World Conference on Timber Engineering(韓国・ソウル)へ1編、の論文としてまとめられています。論文の公表により「囲柱ラーメン木構造」は単なる思い付きではなく、学術的な成果のある構造システムとなったと言えます。・・・新技術・新工法のような謳い文句のものは数多くありますが、学術的論文にまとめられていないものや技術評定など第三者評価を取得していないものなどは、だいぶ怪しいものだと思います。
とは言え、開発のひと段落を終えた「囲柱ラーメン木構造」も更なる利用拡大・拡張のための技術開発は必要であると思います。例えば、多層・長スパン対応や他工法システムとの融合など、大規模木造利用・多様な工法への展開などへ向けた新たな一歩を歩み出して欲しいと個人的には考えています。
末筆ながら、瀧本氏の提唱されている「つなぐプロジェクト」について、未来へつなげていくために時間はかかるものだと推察しますが、「囲柱ラーメン木構造」の技術開発のようにコツコツと歩み続けていくことを確信しています。
岐阜県立森林文化アカデミー 教授 小原勝彦