昨今、未曾有の木造化の大波を世界的に感じます。建築家も木造化提案が目立ちますし、クライアントからの木造化要求も非常に散見するようになりました。この木造化の大波は、一時のトレンドと見られていますか?トレンドで終わっていい事象でしょうか? そうです、世界中が気付き始めています。天然資源であり、循環型資源であり、需要と供給のバランスによって地球の存続を約束できる資源であるという事を。ただ、この大波に乗り前を向いて進んでいるだけでは、そこに大きな問題点があることを見逃します。すでに見逃しているのでは?気のせいだといいのですが。。。
現況、様々な木造化技術が生まれ実際に建設されてきました。郊外はもちろんのこと、都心にも海外に負けないほどの木造ビルが群となる勢いです。木が都心の顔となり、都市に森ができ、優しく柔らかな温かみのある風景に変わっていく様は、とても気持ちのいいものです。技術的革新がもたらした現象だといって過言ではありません。すばらしい!の一言です。
木造化の光と影―見落とされがちな課題たち
ここで革新劇への視線から振り返ってみましょう。少しずつ問題点が露わになってきていると感じます。
木材需要拡大の大義名分は、売り手市場にすることで「理想」の木材流通と木材価格の実現です。冷静に見渡すとどうでしょう。未だに海外より輸入し、林産の伐採量を制限しています。補助金が無いと伐り出せない状況から脱却できていないからです。更に、せっかく大きくまっすぐに育て上げた立派な丸太も、買い手が集成材やCLT関連企業だと、A材がB材・C材に価格割れを起こします。A材はA材としての価値であるべき「理想」は、買い手市場から売り手市場にするほかありません。

また、木材特有のデメリットをしっかりと課題解決しないままに設計され、建設され、クライアントと関係性が断たれるのは非常に心苦しいことです。経年変化・経年劣化によって、水分や紫外線による変色・亀裂・腐食・クリープ変形・ボルトやピンのガタつき・反り・耐火注入材の白華・防蟻注入材の流出など、事象は様々で警鐘を鳴らすべき時がきています。上へ上へのびるシンボリックな大規模木造建築は、見上げていると圧倒され技術の飛躍を感じ優越感さえ覚えますが、一方で地域・規模・面積・階数などから耐火要求が厳しくなり、大断面化・大重量化します。「木材本来の自然体での使われ方」ではなく「無理に頑張っている使われ方」では、木材特有の弱点が負のサイクルに陥り顕在化が早まるわけです。
木造化の持続可能性を問う―補助金依存の先にある未来
以上の様な技術的問題点のほかに、この大波を根底から覆されそうな背景が近い未来にあると予感してしまいます。それは、補助金の投入が無くなることです。
林産が独立採算するためには何がどのようにどれだけ必要なのか、理想の姿はどうあるべきか。今のうちに実行し実現しておかないと、振り出しに戻りかねません。補助金というものは非常にありがたく、あるべき姿へ導くための手段であり、一方で社会情勢を牽引し想定以上の暴走を生む要因となることもあります。
我々の住まう「ここ」は地震大国日本です。これまでに大きな災害が各地で発生し、幾多の人々が被災し、その悲しみは消える事はありません。木材の弱点を学び知った上で、無理しない木材の使い方、自然体での使い方へ移行する。転換時期が来ていると感じます。
囲柱開発者・つなぐプロジェクト/ライン工業 代表 瀧本 実(たきもと みのる)