木造建築で、鉄骨造のような大空間・大開口をつくることはできるのか。その答えのひとつが、岐阜県で生まれた「囲柱(いちゅう)ラーメン木構造」です。
一般流通スケールの木材を専用の金物で束ね、「一体化した柱」とすることで、壁に頼らずに大きな開口・広い空間をつくることができる——そんな新しい木造の工法が、ここ岐阜から生まれました。
この記事では、その専門的な仕組みそのものよりも、ひとつのひらめきが、多くの人・組織・地域とのつながりを経て、実際の建物になっていった過程を紹介します。
(工法そのものについて詳しく知りたい方は「囲柱建築について」もあわせてご覧ください)
なぜ、人とのつながりを辿るのか
囲柱ラーメン木構造は、ひとつの思いつきから始まりました。それを実現したのは、ひとりの発案者だけの力ではありません。
専門知識を求めて出会った研究者、実験を支えた企業、現場で形にした施工チーム、そして学術的な裏付けを与えた学会——それぞれの場面で出会った人・組織・地域とのつながりが、ひとつずつ積み重なって「実在する建物」へと育っていきました。
第1章では、その最初の一歩から第一棟完成までの道のりを、4つの場面に分けて振り返ります。
第1章のストーリー
① 研究者との出会いが開いた道
木造の構造について専門知識を持たなかった発案者が、母校に相談しても答えは見つかりませんでした。ネットで探し続けた末に出会ったのが、古川忠稔教授、小原勝彦教授、河本和義代表理事という3人の研究者です。木材・木造の基礎から実験の重要性までを一から学び、ひとりの思いつきが、検証可能な構想へと変わっていきました。
② 実験が切り拓いた未来
「真似はできない。だから、公開する。」——使う側が安心できる構造体であることを示すため、実験を公開するという決断をします。木材加工のプロであるセブン工業、検証・分析を担ったポラス暮らし科学研究所、そして小規模事業者としては異例の採択を受けた林野庁の支援。4年間にわたる試験の積み重ねが、構法の信頼性を裏付けていきました。
③ 建設会社との邂逅
図面の上で証明できても、「つくる」段階にはまた別の挑戦がありました。たけひろ建築工房、株式会社丸泰、イワシマ設計室、TE-DOK——それぞれ異なる強みを持つ会社がチームを組み、設計・施工・法務・構造実装のすべてを重ね合わせることで、理論は現場で形になっていきました。
④ 学会への発表
「単なる思いつきの構法で終わらせない。」——実験データを学術的な論文としてまとめ、2016年オーストリア・ウィーン、2018年韓国・ソウルの国際会議(WCTE)や、広島大学・東北大学での国内学会で発表しました。合計4編の論文として発表されたこの構法は、学術的にもその意義と信頼性が認められ、第一棟の完成へとつながっていきました。
つながった人・組織・地域
第1章で出会った人・組織・地域を一覧にまとめました。
| 分野 | 名前 | 役割 |
|---|---|---|
| 研究者 | 古川忠稔教授(中部大学) | 最初の扉を開いた出会い |
| 研究者 | 小原勝彦教授(岐阜県立森林文化アカデミー) | 木造・木材の基礎と実験の重要性を指導 |
| 研究者 | 河本和義代表理事(NPO法人WOOD AC/TE-DOK) | 構造体実験の伴走、現場設計への橋渡し |
| 企業 | セブン工業株式会社 | 実験用木部材の精密加工 |
| 企業 | ポラス暮らし科学研究所 | 構造試験の検証・分析 |
| 行政 | 林野庁 | 木材利用技術開発の公的支援 |
| 企業 | たけひろ建築工房 | 第一棟の設計・スケルトンインフィル思想 |
| 企業 | 株式会社丸泰 | 型枠施工・基礎の精度 |
| 企業 | イワシマ設計室 | 建築確認・法務面の実現 |
| 学会 | 日本建築学会 | 国内学会での発表(広島大学・東北大学) |
| 学会 | WCTE(世界木材工学会議) | 国際学会での発表(ウィーン・ソウル) |
| 地域 | 岐阜県 | 開発の拠点、そして構想が生まれた土地 |
第一棟完成、そしてその先へ
学会での発表を経て、囲柱ラーメン木構造は「技術」から「実建築」へと進化し、理論を実装した第一棟がついに完成しました。完成後は多くの研究者や設計者が見学に訪れ、新たな木造の可能性に触れる場となっています。
研究と現場をつなぐこの挑戦は、これで終わりではありません。学術的な裏付けを得たこの構法は、ここから"社会実装"という次の挑戦へと向かっていきます。
第2章に続く
